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 [ ASDO情報交流委員会 ]   2011/03/28 修正削除

                               有限会社 鈴木構造設計
                               代表取締役 鈴木 馨

車の上でくつろぐシロと子猫たち
 私の運転する車の左側前輪にいきなり飛び込んで来たのはなんと二匹の白い猫だった。ドーンとぶつかったかと思ったら一気にUターン。その速さといったら人間の動態視力ではとても追いつかない。二匹の後方、つまり追いかける側の猫が今回の主役である。名前はシロと言う。 
 そのシロが我社の玄関先にひょっこり現れたのは、その日からちょうど一年前のうららかな春の出来事だった。少し大きめなお腹をして物欲しげに見つめる目は、猫嫌いの私でも、何か食べさせてあげなくてはと、人間として極自然な行為に発展させた。そして単に体が白っぽかったのでシロと名付けた。
 毎日のように来ていたシロがしばらく来なくなったが、久しぶりに見せた姿のそのお腹はへこんでいた。どこかで出産?それとも流産?1ヶ月も経った頃だろうか、シロにお弁当のウインナソーセージを与えると、口にくわえてどこかへ運んで行き、15分くらいで戻って来た。1本ずつくわえ、何度も何度も往復した。それは今思い出してみても泣けてくるほどけなげで感動的な姿であった。
会社の私のイスでくつろぐシロ
 シロが小さな子猫たちを連れてくるまでにそれほど時間を費やすことはなかった。3匹の小さな縞模様の子猫たちはとてもかわいく、時間になると皆でエサをねだりに来る。会社ではもうアイドルだ。 
 また、私は寒い冬が来る前に、そして皆がこの寒い冬を越せるようにと、会社のベランダ(1階)に猫ハウスを作ることにした。大きめな段ボールを二つ横に重ね、緊結し中央をくり抜いて、外断熱とビニールシートで囲った入り口の小さい、二部屋のとても暖かそうなハウスに仕上がった。中にはふわふわのペット用毛布を敷き詰めた。買い出しから始めて合計7時間半もかかった苦心の家だ。
 しばらくはなかなか住んでくれる気配はなかったが、ある日夜中におもむき、そっと中を覗くと、何とシロと目が合ったのだ。ようやく苦心して作ったこのハウスに住んでくれたと、このとき私は歓喜のあまり涙が出てきた。
ベッドでくつろぐシロ
 結局、この冬は4匹皆でこのハウスで過ごすことになった。私は 子猫たちを、キー、チョビ、ビビと名付けた。夕方を過ぎて残業時間 になると、私のイスの後ろの小さな隙間にシロがもぐり込み寝てしまう。シロにとってはこんな狭いところこそ一番安心できる場所だったのかも知れない。お互いのぬくもりを感じながら、私はそんなシロをこよなく愛した。
 しかしこの幸せもそう長くは続かなかった。暖かい春が訪れ、近くの地域ボス猫が、ちょうど1歳になったばかりの子猫たちをいじめ、追い立て、ついに会社の猫ハウスから皆が離れてしまったのだ。会社から数百メートル離れた生まれ故郷の空き家に皆で逃げ帰ってしまったのだ。しかしその地域にはまた別のボス猫がいて、子供たちを追い立てる。もうどこにも逃げる場所はない。居直った親猫のシロは必死にそのボス猫を子猫たちから追い払う。ボス猫に子供たちが追われ、シロがボス猫を追い払うという何とも悲劇的な繰り返しをしていたさなかに、冒頭の「私の車の前輪に2匹の白い猫が飛び込んで来た。」というところへ繋がるわけである。
風呂場を覗くシロ
 1秒足らずで道路の横断をしてしまう、そのあまりにも危険な行為に直面し、このままだといつか必ず車に轢かれてしまうと直感した私は、同様にほんの1秒で決断できた。「シロを家に連れて帰ろうと。」
白いボス猫を追い払い、私のところにすり寄ってきたシロを抱きかかえながら、私はつぶやいた。
「ご苦労様。もうお前は十分に子猫たちを育てた。だってもう一歳になるんだから。お前ももう疲れただろう?私のところへ行こう!私のところへ行って十分休んでおくれ。子猫たちは私が必ず守ってあげるから。」
 その決断の日から8ヶ月が経過した現在、名前の如く文字通り真っ白になったシロは、安心して毎晩私と同じ枕で寝ている。そして子猫たちは1歳8ヶ月となり、人間で言えばもう立派な大人、私の会社と同様にかわいがってくれるパトロン(近所のおばあさん)を他にも探し、両方を行ったり来たりの毎日だ。
 とても大きく育った子猫たちはとても気が優しく、まだまだ地域ボス猫になるには難しいようだが・・・。
 現在、私の二人の子供(娘と息子)はそれぞれ所帯を持ったため、家では女房と猫のノンちゃん(女の子)、犬のチロとムク(両方ともマルチーズ)と、かわいい私のシロとで静かに暮らしている毎日である。
 本来、犬好きで猫嫌いの私だったが、どうしてもっと早く猫のかわいさを知ることができなかったのかと悔やむ反面、生きているうちに猫のかわいさを知ることができ、そしてそのような愛おしい猫と一緒に住むことができたことに幸せを感じている。
 また、私とシロはいったいどのような赤い糸で結ばれていたと言うのだろうかとつくづく考えてしまう。
 そしてこの広い世の中で、シロと奇跡的に出逢えたことに。

                        ◇◇◇